世界をざわつかせた「サルのキリスト」と著作権(序文)

Blog in Japanese

スペインボルハ市で起きた、あの有名な「サルのキリスト」事件。教会のイエス・キリストのフレスコ画を、アマチュア画家のセシリア・ヒメネス(1931–2025)さんが、教会の正式な許可もないまま修復しようとして、思わぬ姿に変えてしまった――というニュースを当時見た記憶がある。

(物議を醸したあの絵は、著作権の関係でここには貼れないので、下記リンクで見てほしい)



本題に戻るが、最近あらためて検索して上記のリンクを読んでみると、この“失敗作”が世界中で話題になった結果、観光客が一気に押し寄せ、人口5,000人ほどの小さな町ボルハに思わぬ経済効果をもたらしていたことが分かった。報道では累計で少なくとも45万ユーロ、別のメディアでは60万ユーロ規模とも言われている。

その後、ボルハ市は修復後の画像の利用収益について、49%をヒメネスさん側に帰属させると決定した。ヒメネスさんはその収益を慈善団体に寄付しており、2025年12月29日に亡くなった後も、遺言により寄付が継続される形で管理されている。

一方、元のフレスコ画を描いたスペイン人画家、エリアス・ガルシア・マルティネス(Elías García Martínez, 1858–1934)さんの子孫は、作品が元の姿に戻されないことに不満を抱いていると報じられている。


この事件は、著作権をめぐって多くの論点を提示している。例えば:

■ ヒメネスさんの“修復後画像”は著作権の保護対象となるのか

  • 原画を大きく改変した結果、別個の著作物として扱われる可能性がある。著作権法は「創作性」があれば保護するため、修復後の絵が原画とは異なる独自の表現になっている点は重要だ。
  • ただし、無許可で文化財を改変したという“違法性”がある著作物を、著作権で保護すべきかという別の問題も生じる。一般論としては、違法行為によって作られた作品でも著作権が否定されるわけではないが、利用や権利行使には制限がかかる可能性がある。

■ 原画作者マルティネスの遺族は、著作者人格権を主張できるのか

  • まず、スペインを含むEUでは、著作権は著作者の死後70年で消滅する。原画作者エリアス・ガルシア・マルティネスは1934年に亡くなっているため、著作権は2004年に失効している。
  • 著作権の中で一つの権利(支分権という)である、著作者人格権(例えば「同一性保持権」=作品を勝手に変えられない権利)の扱いは国によって異なるが、一般に遺族が法的に主張できる範囲は限定的であり、著作権消滅後にどこまで遺族が介入できるかは、法制度上かなり制約がある。

なお、著作権は属地主義であり、著作物が存在する国の法律が適用される。要するに、これはスペインで起きた出来事であるため、適用されるのはスペインの著作権法である(厳密に言えば、EU著作権ルールを実施する同国の国内法)。


まとめると、この「サルのキリスト」の騒動一つとっても、

  • 著作権
  • 著作者人格権
  • 改変作品の扱い
  • 文化財保護と法的責任

など、多くの論点を含んでおり、非常に興味深い。

時間があれば、さらに論点を整理してみたい。

念のためだが、この文章の著作権は、良くも悪くも私・Max Wongにあることに留意してほしい☺